「透析を始めたら、体重が増えないように塩分は1日6g未満にしましょう」と説明された方は多いでしょう。
「なぜ6gなの?」
「そんなの無理だし、塩分制限には効果がない」
「水分制限だけではだめなの?」
「塩分を減らすと、本当にのどの渇きも楽になるの?」
と疑問に感じる方も多いと思います。
透析患者さんにとって、塩分制限は単に血圧を下げるためだけのものではありません。のどの渇きを抑え、透析と透析の間の体重増加を少なくし、心臓や血管への負担を軽くするための大切な管理です。
この記事では、日本透析医学会や日本腎臓学会、KDIGOなどの資料をもとに、透析患者さんに塩分制限が必要な理由と、無理なく減塩を続けるポイントを解説します。
この記事でわかること
- 日本人が平均して摂取している塩分量
- 透析患者さんに塩分制限が必要な理由
- 「1日6g未満」とされる根拠
- 塩分と、のどの渇き・水分摂取との関係
- 今日から始められる減塩のポイント
日本人は平均してどのくらい塩分を摂取している?
厚生労働省の令和6年「国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の1日当たりの食塩摂取量は、平均で9.6gでした。
男女別では、次のとおりです。
- 男性:10.5g
- 女性:8.9g
透析患者さんや腎臓病患者さんが目標とする「塩分1日6g未満」と比べると、日本人は平均で約3~4g多く塩分を摂取していることになります。
日本食は、しょうゆ、みそ、漬物、干物、練り製品、麺類のスープなど、塩分を多く含む調味料や料理が多い傾向があります。
そのため「味付けを濃くしているつもりはない」という方でも、知らないうちに塩分を多く摂っている可能性があるのです。
透析患者さんに塩分制限が必要な理由
健康な腎臓は、食事から摂取したナトリウムや余分な水分を尿として排出し、体内のバランスを保つ役割を担っています。
しかし、腎機能が大きく低下し、尿量が少なくなった透析患者さんでは、摂取した塩分と水分を十分に排出できません。
その結果、体内に塩分と水分がたまりやすくなります。
塩分を多く摂ると、のどが渇く
塩分の主成分であるナトリウムを多く摂ると、血液中のナトリウム濃度が高くなります。
脳にあるセンサーはこの変化を感知し、ナトリウムの濃度を元に戻すために「水を飲みたい」という感覚を起こします。つまり、塩分を摂りすぎるほど、のどが渇きやすくなるのです。
透析患者さんの場合、飲んだ水分を尿として排出できないことがあります。そのため、水分は次の透析まで体内に残り、体重増加やむくみにつながります。
塩分過多によって起こりやすいこと
塩分と水分が体内にたまると、次のような問題が起こりやすくなります。
- 透析間の体重増加が多くなる
- 血圧が高くなる
- 足や顔がむくむ
- 息苦しさが生じる
- 心臓に負担がかかる
- 透析中に多くの水分を除去する必要がある
- 除水量が増えることで血圧低下や足のつりが起こりやすくなる
透析では余分な水分を除去できますが、短時間に多く除水すると、体への負担が大きくなります。
KDIGOも透析患者さんの血圧・体液量管理のポイントは、食事からのナトリウム摂取を減らし、透析間の体重増加を抑えることを重要な対策として推奨しています。
塩分を摂りすぎると水分制限が難しくなる
水分制限というと「飲み物を我慢すること」ばかりに意識が向きがちです。
しかし、塩辛いものを食べた後に、水を飲まずに我慢するのは簡単ではありません。体が水分を求めるためです。
たとえば、次のような食品を食べた後に強くのどが渇いた経験はないでしょうか。
- ラーメンやうどん
- 漬物
- 塩辛
- 干物
- ハムやソーセージ
- せんべい、スナック菓子
- 味の濃い総菜
「水を飲まないように頑張る」だけでは、つらい水分管理になってしまいます。
反対に食事の塩分量を減らすと、のどの渇きが起こりにくくなり、結果として水分摂取量も抑えやすくなります。
水分制限を続けていくためには、飲み物だけでなく塩分摂取量を見直すことが重要です。
「塩分1gで水分100mLが必要」は本当?
透析の食事指導では目安として、
塩分を1g摂ると、約100mLの水分が必要になる
と説明されることがあります。
食塩1gには約17mmolのナトリウムが含まれています。血液中のナトリウム濃度を約140mmol/Lとして単純に計算すると、濃度を保つために必要な水分は約120mLとなります。
このため、「塩分1gにつき水分約100~120mL」という数字は、塩分と水分の関係を理解するための大まかな目安として使われています。
ただし、これは人体にそのまま当てはめられる厳密な換算式ではありません。
実際に感じるのどの渇きや必要な水分量は、次の条件によって変わります。
- 残っている尿量
- 発汗量
- 気温や湿度
- 運動量
- 血糖値
- 食品に含まれる水分
- 透析液のナトリウム濃度
- 薬の影響
したがって、塩分を1g摂ったから必ず水を100mL飲まなければならなかったり、水分がh欲しくなったりするという意味ではありません。
大切なのは、塩分摂取量が増えるほど身体の中のナトリウム濃度が上がり、のどが渇いて水分摂取が増えるという関係を理解することです。
透析患者さんが「塩分1日6g未満」と指導される根拠
日本透析医学会は透析患者さんの減塩目標について、次のように示しています。
食塩摂取量は原則として1日6g未満。ただし、尿量、身体活動度、体格、栄養状態、透析間体重増加を考慮して適宜調整する。
つまり、6g未満はすべての患者さんへ機械的に当てはめる絶対的な数字ではなく、体液量や血圧を管理するための基本的な目安です。
日本腎臓学会のCKD診療ガイドラインでも、食塩摂取を1日6g未満にすることは、高血圧や尿蛋白を抑える目的で推奨されています。
「6gぴったり」でなければ意味がないわけではない
現在の日本人の平均食塩摂取量は9.6gです。
仮に現在10g程度摂っている方が、急に6g未満を目指すと、食事が味気なく感じられ食欲がわかなくなることもあります。
そのような場合は
- まず9gを目指す
- 次に8gへ減らす
- 徐々に薄味に慣れる
という方法でも構いませんので、少しずつ減塩生活に慣れていくようにしましょう。
とくに、高齢の方、食欲が低下している方、低栄養が心配される方では、過度な減塩によって食事全体の摂取量が減らないよう注意が必要です。
CKD診療ガイドラインでも、末期腎不全、死亡、心血管イベントに対する減塩の直接的な効果は明確ではなく、低栄養や脱水などにも配慮しながら個別に目標を設定する必要があるとされています。
6gは「大規模試験で証明された境界線」ではない
ここは大切なポイントです。
1日6g未満という値は、6.0gと6.1gの間で急に危険性が変わることを、大規模な臨床試験で証明した数字ではありません。
日本人の食習慣、血圧管理、体液量管理、これまでの研究結果などをもとに設定されたガイドライン上の標準的な目標です。
そのため、実際には次の項目も確認しながら調整します。
- 透析間の体重増加
- 血圧
- むくみ
- 呼吸状態
- 残尿量
- ドライウェイト
- 食欲や栄養状態
- 透析中の血圧低下や足のつり
自分に合った塩分量については、主治医や管理栄養士、透析スタッフへ確認してください。
塩分を減らすポイント3選
塩分を減らすのは、特別な減塩食品だけをそろえれば可能なのでしょうか?
そのほかにも、日々の食事で少しだけ気をつけることで塩分を減らせるポイントがあります。
まずは、毎日の食事で効果が出やすい3つのポイントに気を付けて、減塩生活をスタートさせてみましょう。
1.汁物・麺類の汁を残す
みそ汁やスープ、麺類の汁には、多くの塩分が含まれています。
特にラーメン、うどん、そばなどは、麺だけでなくスープから多くの塩分を摂ることになります。
減塩のポイントは次のとおりです。
- 麺類の汁は飲み干さない
- つけ麺やざるそばを選ぶ
- つゆは少量だけつける
- みそ汁は具だくさんにして、汁を少なくする
- 汁物を毎食ではなく、1日1回以下にする
「汁を残す」だけでも、塩分摂取量を大きく減らせることがあります。
ただし、麺類そのものにも塩分が含まれているため、汁を残せば塩分がゼロになるわけではありません。
2.調味料は「かける」より「つける」
しょうゆ・ソース・ドレッシングを料理全体にかけると、使用量が分かりにくくなります。
小皿に少量出し、料理の一部分だけにつけて食べると、少ない量でも味を感じやすくなります。
- しょうゆは小皿に出す
- 刺身は両面ではなく片面だけにつける
- ドレッシングは別添えにする
- 卓上に調味料を置かない
- 目分量ではなく計量スプーンを使う
「減塩しょうゆ」や「減塩みそ」も役立ちますが、味が薄い気がして量を多く使えば塩分摂取量は増えます。減塩食品を使う場合も、使用量を意識しましょう。
なお、一部の減塩調味料では、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを使用しています。塩化カリウムを使用すると、塩分だけでなくカリウムもとることになります。高カリウム血症がある方は、使用前に医師や管理栄養士へ確認してください。
3.酸味・香り・香辛料を活用する
薄味の料理が物足りなく感じるときは、塩を増やすのではなく、香りや酸味を加えてみましょう。
たとえば、次のような食品が活用できます。
- レモン
- ゆず
- 酢
- こしょう
- 七味唐辛子
- カレー粉
- しょうが
- にんにく
- 大葉
- みょうが
- ねぎ
- ごま
- かつお節
焼き魚にしょうゆをかける代わりに、レモンや大根おろしを添えるなど、味のアクセントを変えると、塩分が少なくても満足しやすくなります。
ただし、調味料や薬味に含まれるカリウム・リンが問題になる場合もあります。大量に使用するのではなく、少量を上手に取り入れましょう。
食品表示で塩分量を確認する方法
加工食品の栄養成分表示には、「食塩相当量」が記載されています。
たとえば、食塩相当量が次のように書かれていたとします。
食塩相当量 2.0g
1日6g未満を目指す場合、この食品だけで1日の目安の約3分の1を摂る計算になります。
食品を選ぶときは、100g当たりの表示か、1包装当たりの表示かも確認してください。
1袋に2食分入っている食品をすべて食べると、表示されている塩分量の2倍になる場合があります。
塩分が多くなりやすい食品
- 漬物
- 梅干し
- 佃煮
- 干物
- ハム、ベーコン、ソーセージ
- ちくわ、かまぼこ
- インスタント麺
- レトルト食品
- 市販の弁当や総菜
- せんべい、スナック菓子
完全に禁止する必要はありませんが、量と頻度を調整することが大切です。
看護師からのひとこと

水分を我慢しているのに、透析間の体重が増えてしまう方は、飲み物だけでなく食事の塩分にも注目してみてください。
「水を飲まないようにする」よりも、「のどが渇きにくい食事にする」方が、つらさを減らせることがあります。
一方で、塩分を減らすことに集中しすぎて食欲が落ちたり、必要なエネルギーやたんぱく質を摂れなくなったりするのは望ましくありません。
減塩は、食事を楽しめる範囲で少しずつ続けることが大切です。
まとめ|塩分を減らすと水分管理も続けやすくなる
透析患者さんに塩分制限が必要なのは、単に「塩分は体に悪いから」ではありません。
塩分を摂りすぎると、
のどが渇く
→ 水分摂取量が増える
→ 透析間の体重が増える
→ 除水量が多くなる
→ 心臓や血管、透析中の体への負担が増える
という悪循環が起こりやすくなります。
日本透析医学会では、慢性透析患者さんの食塩摂取量について、原則として1日6g未満を目標としています。ただし、尿量、体格、活動量、栄養状態、透析間体重増加などによって調整が必要です。
まずは、
- 汁物や麺類の汁を残す
- 調味料は「かける」より「つける」
- 酸味・香り・香辛料を活用する
という3つから始めてみましょう。
水分を我慢する前に、塩分を見直す。
これが、無理の少ない水分管理につながります。
※この記事は一般的な情報提供を目的としています。塩分・水分の目標量は、尿量、透析方法、心機能、栄養状態などによって異なります。実際の食事管理については、主治医または管理栄養士へご相談ください。
・日本透析医学会.慢性維持透析患者の食事療法基準.日本透析医学会.
・日本腎臓学会.CKD診療ガイドライン2024.東京医学社,2024.
・KDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes). KDIGO Clinical Practice Guideline for Blood Pressure and Volume Management in Dialysis. Kidney International, 2020.
・厚生労働省.令和5年 国民健康・栄養調査結果.
・日本腎臓財団.腎臓病と食事・水分・塩分


コメント