「え?透析は4時間もしなければならないのですか?」
透析を始めたばかりの患者さんから、私たち医療スタッフが最もよく受ける質問の一つです。
「3時間では足りないの?」
「週2回ではだめなの?」
「今日は体調がいいから少し早く終われませんか?」
透析自体が決して楽な治療ではありませんし、続けていくことはもっと大変です。週3回・1回4時間という治療時間は、仕事や家事・趣味との両立を考えると、その時間を長く感じる方も多いでしょう。
しかしこの「週3回・1回4時間」という治療方針には、単なる慣習や医療者の利益などではなく、長年の研究によって積み重ねられた科学的な根拠があります。
日本透析医学会の『維持血液透析ガイドライン』では、標準的な維持血液透析として「週3回、1回4時間以上」を推奨しています¹)。
この記事では、日本透析医学会ガイドラインや国内外の代表的な研究をもとに、なぜ現在の透析時間が標準となっているのかをわかりやすく解説します。
結論:週3回・1回4時間は「命を守るため」の標準治療
現在行われている
週3回・1回4時間
という透析スケジュールは
- 老廃物を十分に除去するため
- 水分を安全に除去するため
- 心臓への負担を減らすため
- 長期的な生命予後を改善するため
という4つの目的があります。
つまり「病院の都合」で決められた時間ではありません。
患者さんが安全に、できるだけ長く元気に生活するために、多くの研究から導き出された標準的な治療方針なのです。
もちろん、年齢や体格・残っている腎機能などによって透析条件は調整されます。しかし、多くの患者さんでは、この週3回・1回4時間が最もバランスの取れた治療と考えられています¹)。
透析を週3回・1回4時間しなければならない理由 5選
ではなぜ週3回、1回4時間も透析をしなければならないのでしょうか?
その理由は多岐にわたります。順に解説します。
理由① 老廃物は24時間たまり続ける
健康な腎臓は、1日24時間休むことなく働いています。
心臓が動き続けるように、腎臓は眠っている間も血液をろ過し、不要な老廃物や余分な水分を体の外へ排出しています。
一方、血液透析はどうでしょうか。
透析を受けている時間だけ血液がきれいになります。
例えば、
- 1回4時間
- 週3回
の場合、1週間で透析をしている時間は12時間しかありません。
つまり、1週間は168時間ですから、そのうちの156時間は透析をしていないことになります。
透析していない間にも
- 尿素
- クレアチニン
- カリウム
- リン
などの老廃物は少しずつ体内に蓄積していきます。
透析は、この蓄積した老廃物をまとめて取り除く治療です。
しかし、どれだけ性能の高い透析装置でも、健康な腎臓が24時間かけて行っている仕事を4時間で完全にカバーすることはできません。
だからこそ、定期的に繰り返し透析を受けることが必要なのです。
理由② 水分を一気に抜くと体に大きな負担がかかる
透析で除去するのは老廃物だけではありません。飲み過ぎたり、食事に含まれたりした余分な水分も透析で取り除いています。
ここで考えてみましょう。
例えば2日間で体重が3kg増えた場合、それは約3Lの水分が体内にたまっている状態です。
もしこの3Lを短時間で一気に除水すると、何が起こるでしょうか。
血液中の水分が急激に減ってしまうと
- 血圧低下
- めまい
- 吐き気
- 足のつり
- 冷や汗
などが起こりやすくなります。
さらに、全身の血液の量が急激に減ると、心臓は少ない血液を全身へ送り出そうと無理をするため、心臓への負担も大きくなります。
近年では、除水速度(Ultrafiltration Rate:UFR)が速すぎる患者さんほど死亡率が高いことが複数の研究で報告されています。
Flytheらは、除水速度が13mL/kg/時を超える患者では死亡リスクが高くなることを報告しました²)。
そのため現在では
「短時間で一気に水を抜く」のではなく、
時間をかけてゆっくり除水する ことが安全な透析につながると考えられています。
つまり、4時間という治療時間には、老廃物を除去するだけでなく心臓や血管を守るという重要な意味もあるのです。
理由③ 日本透析医学会ガイドラインでも「4時間以上」が推奨されている
では、「4時間」という時間は誰が決めたのでしょうか。
その答えの一つが、日本透析医学会(JSDT)が作成している『維持血液透析ガイドライン』です。
2023年改訂版では、
標準的な維持血液透析は週3回、1回4時間以上を推奨する
と明記されています¹)。
その理由としてガイドラインでは、
- 十分な透析量(Kt/V)の確保
- 除水速度を安全な範囲に保つこと
- 心血管イベントを減らすこと
- 長期的な生命予後の改善
などを挙げています。
つまり、「4時間」は経験的に決められた数字ではなく、多くの研究結果を総合して導き出された時間なのです。
もちろん、体格の小さい患者さんや、残っている腎機能が多い患者さんでは条件が調整されることもあります。しかし、多くの維持透析患者さんでは、4時間以上の透析が最も安全性と効果のバランスが取れていると考えられています。
理由④ 透析時間が短いと寿命に影響がでる
「4時間と言われても、30分くらい短くても変わらないのでは?」
そう思われる方もいるかもしれません。
実は、この疑問については世界中で多くの研究が行われています。
その中でも特に有名なのが、DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study:ドップス)です。
DOPPSは日本を含む20か国以上、数万人規模の透析患者さんを対象に行われている世界最大級の国際共同研究です。
2006年に発表された解析では、透析時間が30分長くなるごとに死亡リスクが約7%低下することが報告されました³)。
もちろん、「30分長くすれば必ず寿命が延びる」という意味ではありません。
しかし、この研究は透析時間が患者さんの生命予後と関係している可能性を示した重要な報告として、現在も日本透析医学会ガイドラインで引用されています。
また、その後のDOPPSの解析でも、十分な透析時間の確保が患者さんの予後改善につながることが繰り返し報告されています。
つまり、「4時間」という時間は経験則ではなく、多くの患者さんの治療成績を積み重ねた結果から導かれた標準なのです。
理由⑤ 「Kt/V」という世界共通の指標がある
透析には、「十分に透析ができたか」を評価する指標があります。
それがKt/V(ケーティー・オーバー・ブイ)です。
難しく聞こえますが、患者さんは「血液がどれくらいきれいになったかを表す点数」と考えていただければ十分です。
Kt/Vは、
- K:ダイアライザーで血液をきれいにする能力
- t:透析時間
- V:体内の水分量
から計算されます。
つまり、透析時間(t)が短くなると、Kt/Vも低下しやすくなるということです。
日本透析医学会では、標準的な血液透析ではsingle-pool Kt/V 1.4以上を目標値として推奨しています¹)。
このKt/Vが低い患者さんほど身体の中に毒素が溜まっていて、透析が不足している状態になります。透析が不足した状態は生命予後が悪いことがわかっていますので、やはり目標値を達成できるくらいに十分透析をしたほうがよいのです。
そして目標値まで身体の中をきれいにするには、最低でも週3回4時間の透析が必要になるため、透析回数や時間が決まっているのです。
「透析量を増やせば増やすほど良い」わけではない
ここで一つ興味深い研究を紹介します。
2002年に発表されたHEMO Studyです⁴)。
この研究では、約1,800人の維持透析患者さんを対象に、
- 通常より多く透析を行う群
- 標準的な透析を行う群
を比較しました。
その結果、透析量(Kt/V)を必要以上に増やしても、死亡率は有意には改善しませんでした。
この結果から分かったことは、「たくさん透析をすれば良い」という単純な話ではないということです。
大切なのは、適切な透析量を、適切な時間をかけて、安全に行うことなのです。
そのため現在では、
- 十分なKt/V
- 適切な透析時間
- 安全な除水速度
これらをバランスよく考えることが重要とされていて、週3回4時間透析が推奨されているのです。
「今日は30分くらい早く終わっても大丈夫ですか?」の疑問に答える
透析室では、ときどきこんな相談を受けます。
「今日は予定があるので30分早く帰れませんか?」
一度だけであれば、大きな問題にならないこともあります。
しかし、それが毎回続くと話は変わります。
例えば、毎回30分短縮すると、4時間透析は3時間30分になります。
週3回では、毎週1時間30分透析時間が減る計算です。
1か月では約6時間。
1年間では約72時間。
つまり、1年で18回分の4時間透析を受けなかったことと同じになります。
週3回の透析を1か月受けると約12回の透析になります。毎回30分短縮しただけで、1年間で1カ月半も透析しなかったことと同じ状態になってしまうのです。
これだけ透析時間が減ると
- 老廃物の蓄積
- Kt/Vの低下
- 水分管理の悪化
につながる可能性があります。
そのため、医療スタッフは「できるだけ予定どおり透析を受けていただきたい」とお伝えしていますし、今日30分だけ短いのはおすすめできないのです。
長時間透析(オーバーナイト透析)はもっと身体にいいの?
最近では
- 長時間透析
- オーバーナイト透析
- 在宅血液透析
なども注目されています。
これらの長時間透析や頻回透析では
- 除水速度をゆっくりにできる
- 血圧が安定しやすい
- リンの除去効率が向上する
- 食事や水分制限が緩和される場合がある
などのメリットが報告されています。
一方で
- 通院時間
- 在院時間
- 睡眠への影響
- 医療資源
などの課題もあります。
そのため「透析は長ければ長いほど良い」とは言えません。
患者さん一人ひとりの生活や体調に合わせて選択することが大切です。
看護師からひとこと

4時間の透析は、決して短い時間ではありません。毎週3回それを何年も生涯に渡って続けることは、本当に大変なことだと思います。
だからこそ、「今日は少しでも早く帰りたい」と思う日があるのは自然なことです。
私たち医療スタッフも、そのお気持ちはよく理解しています。
しかし、この4時間には老廃物を取り除くだけではなく、心臓を守り、血管を守り、これからの生活を守るという大切な意味があります。
「4時間は長いから我慢する時間」ではなく、「これからも元気に過ごすための時間」と考えていただけたらうれしいです。
まとめ
透析が「週3回・1回4時間」で行われる理由は、単なる慣習ではありません。
長年にわたる研究と、世界中で積み重ねられたエビデンスによって、この治療時間が安全性と効果のバランスに優れていることが示されてきました。
この記事のポイントをまとめると、
- 腎臓は24時間働いているため、透析は定期的に受ける必要がある
- 短時間での除水は心臓や血管への負担が大きい
- 日本透析医学会は「週3回・1回4時間以上」を推奨している
- DOPPS研究では、透析時間が長いほど生命予後が良い傾向が報告されている
- Kt/Vや除水速度など、透析時間以外にも重要な要素がある
- 予定どおり透析を受け続けることが、将来の健康につながる
透析は「時間を過ごす治療」ではなく、命を守るための治療です。
その意味を知ることで、4時間という時間の見え方が少し変わるかもしれません。
参考文献
- 日本透析医学会. 2023年版 維持血液透析ガイドライン:血液透析処方.
- Flythe JE, Kimmel SE, Brunelli SM. Rapid fluid removal during dialysis is associated with cardiovascular morbidity and mortality. Kidney Int. 2011;79:250-257.
- Saran R, Bragg-Gresham JL, Levin NW, et al. Longer treatment time and slower ultrafiltration in hemodialysis: associations with reduced mortality in the DOPPS. Kidney Int. 2006;69:1222-1228.
- Eknoyan G, Beck GJ, Cheung AK, et al. Effect of dialysis dose and membrane flux in maintenance hemodialysis. N Engl J Med. 2002;347:2010-2019.


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