「透析すると早く死んでしまうのではないか?」
「透析を始めたら、あと何年生きられるのだろうか?」
「透析患者は、どのような病気で亡くなることが多いの?」
透析の必要性を告げられた患者さんやご家族、そして透析をしている患者さんがこのような不安を抱えることは少なくありません。
インターネットで「透析」「死亡率」「死因」と検索すると、「数年で亡くなる」「長生きできない」など不安になる文言が目に入ることもあります。
しかし、インターネットやSNSの記事にある数字や統計上の死亡率を、そのまま一人ひとりの寿命として受け取ることはできません。
なぜなら透析患者さんが透析を始めてからどのような人生を歩み亡くなるかは、年齢、腎臓病の原因、心臓や血管の状態、糖尿病の有無、栄養状態、感染症、残っている腎機能などによって大きく異なるからです。
この記事では、日本透析医学会の最新の統計結果をもとに、透析患者さんの死亡率や主な死因について、正確に解説します。
透析患者さんの死亡率はどのくらい?
日本透析医学会の「わが国の慢性透析療法の現況」によると、2024年末の国内の透析患者数は33万7,414人でした。
といってもイメージできないかもしれませんが、日本国内で33万人というと群馬県前橋市、福島県郡山市の人口に相当するそうです。日本で2番目に人口が少ない島根県の人口は67万人ですから、島根県では2人に1人が透析をしている換算になります。
そうやって考えると、かなりの人数の患者さんが透析をしていることがわかりますよね。
2024年中に亡くなった透析患者さんは3万8,348人で、年齢調整をしていない年間の粗死亡率は11.3%と報告されています。
「死亡率11.3%」と聞くと、「透析患者の10人に1人以上の人が毎年亡くなる」と感じ、「次は自分なのでは…」と不安になるかもしれません。
実はこの数字をそのまま個人の余命として考えることはできません。
日本の透析患者さんの平均年齢は2024年末時点で70.27歳、透析を新たに始めた患者さんの平均年齢は71.69歳です。
つまり、透析患者全体の死亡率には透析そのものの影響だけではなく、高齢化や糖尿病、心臓病、がんなどの持病による多種多様な原因が複雑に絡んでいるからなのです。
そして若くして透析を始めた方と、80歳代で複数の持病を抱えて透析を始めた方では、同じ「透析患者」であってもその先の人生の見通しは異なります。
そのため、「透析を始めたら何年生きられる」という一つの数字で答えることはできないのです。
透析患者さんに最も多い死因は感染症
日本透析医学会(JSDT)は透析患者さんについてさまざまな統計調査をおこなっています。
2024年に日本透析医学会がおこなった調査では、透析患者さんの主な死因は次のように報告されています。
1位は感染症で24.2%、2位は心不全で19.0%、3位は悪性腫瘍、いわゆるがんで7.4%でした。そのほか、老衰や尿毒症など、脳血管障害、心筋梗塞などが含まれます。

また、透析を始めた年のうちに亡くなった患者さんに限っても、最も多い死因は感染症で26.8%、次いで心不全が19.2%、悪性腫瘍が10.0%でした。
近年の日本では、感染症が心不全を上回り、透析患者さんの最も多い死因となっているのです。
なぜ感染症が多いの?
透析患者さんは腎機能の低下や糖尿病、低栄養、高齢化などの影響で、透析をしていない患者さんよりも感染症に対する抵抗力が低くなっています。
また予防接種を打っても免疫がつきにくく、効果が長持ちしにくいということもわかっていて、感染症に弱い状態になっているのです。
また血液透析では週3回程度、透析用の針を刺します。人工血管や透析用カテーテルを使用している場合には、シャントなどのバスキュラーアクセスが感染の入り口になることもあります。
透析患者さんがかかりやすい感染症の種類としては、肺炎、敗血症、バスキュラーアクセス感染、尿路感染症などに注意が必要です。
特に高齢の患者さんは、感染症にかかっても熱が出なかったり自覚症状がなかったりするケースも少なくありません。「食欲がない」「いつもより元気がない」「ぼんやりしている」といったちょっとした変化しか現れず、気づいたら重症化して入院しなければならない…という場合も多いのです。
体調の変化は熱だけで判断せず、普段と違う症状を自覚したり気づいたら早めに透析施設へ伝えることが重症化予防に大切です。
2番目に多い死因は心不全
心不全とは、心臓の働きが低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなった状態です。
透析患者さんでは、腎臓から尿を十分に出せないため、体内に水分がたまりやすくなります。水分が多くなると心臓に負担がかかり、息苦しさ、むくみ、血圧上昇などが起こります。
一方で、透析中に大量の水分を短時間で除去すると、血圧が低下し、心臓や全身の臓器への血流が不足することがあります。
つまり透析患者さんの心臓を守るには、単に「体重を増やさない」だけでなく、適切なドライウェイトを設定し、無理のない速度で除水することが重要です。
以前の記事で解説したように、透析時間を確保することは、除水速度を下げ、心臓への負担を軽減することにもつながります。
心不全の兆候としては、次のような変化に注意します。
- 横になると息苦しい
- 少し歩くだけで息切れする
- 足や顔のむくみが強い
- 透析と透析の間の体重増加が多い
- 夜間に咳が出る
- 食欲が低下した
このような症状がある場合は、次回の透析日まで待たずにはやめに医療機関に相談するようにしましょう。
がんや脳血管障害にも注意が必要
悪性腫瘍は、2024年の透析患者さんの死因の7.4%を占めています。
透析患者は一般の人と比べてがん全体で約1.5〜2倍、特に腎臓がんは約15倍も発症リスクが高くなることがわかっています。
また透析をしているからといって、がん検診が不要になるわけではありません。
年齢や体調に合わせて、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんなどの検診を受け早期発見・早期治療することが大切です。
また、透析患者さんでは高血圧、糖尿病、動脈硬化などを合併していることが多く、脳梗塞や脳出血にも注意が必要です。
突然、片側の手足が動かしにくくなった、言葉が出ない、口元がゆがんだ、今までにない激しい頭痛がある場合は、すぐに救急車を呼びましょう。
透析をすると必ず短命になるの?
「透析患者さんは一般の人より死亡率が高い」という事実だけを見れば、誰でも不安に感じるでしょう。
しかし、透析は寿命を縮めるための治療ではありません。
腎臓の働きが著しく低下した状態で透析を行わなければ、体内に水分・カリウム・酸・尿毒素などが蓄積し、苦しい中なくなる可能性が高いです。透析はそれらを取り除き、命と生活を支えるための治療です。
また、日本には透析を20年、30年、40年以上続けながら生活している患者さんもたくさんいらっしゃいます。実は、私も日々自分の年齢と同じくらい透析をしている患者さんを担当していますので、決して珍しいケースではないとおもいます。
そして同じ『透析患者さん』でも、健康状態や生活は一人ひとり異なります。「平均寿命」や「粗死亡率」という数字だけで、ご自身の未来を決めつける必要はありません。
大切なのは透析をしているという「自分が変えられない要因」ではなく、「日々の治療や生活の中で変えられる部分」に目を向けることだと考えます。
長く元気に過ごすために大切なこと
透析を予定どおり受ける
透析時間を頻繁に短縮したり、自己判断で透析を休んだりすると、水分、カリウム、老廃物が蓄積します。
特に週末など透析の間隔が長くなる期間は注意が必要です。体調が悪く透析へ行けない場合も、自分で休むと決めず、まずかかりつけ施設へ相談するようにしましょう。
水分と塩分を管理する
塩分を多く取ると喉が渇き、水分摂取が増えやすくなります。透析間の体重増加が多くなると、除水速度が上がり心臓や血管への負担がかかる無理な透析をしなければならなくなります。
「水分を飲まない」という意志だけで水分を我慢し続けることは困難です。
まず塩分を控えることで、身体が水分を欲しがることも減ります。
水分と塩分の管理はちょっとしたコツが必要なのです。
シャントやカテーテルの感染を防ぐ
シャントの発赤、腫れ、熱感、痛み、膿などは感染の可能性があります。
速やかにかかりつけ医療機関を受診し、抗生物質の投与などをしないと命にかかわることもあります。
また透析用カテーテルを使用している方は挿入部を濡らさないことや、ドレッシング材を勝手に外さないことなど、施設から説明された管理方法を守ることで感染のリスクを減らすことができます。
食べられない状態を放置しない
透析患者さんでは、太りすぎだけでなく、痩せや低栄養も大きな問題になります。
食欲がない、体重が減ってきた、以前より筋力が落ちたという変化は、「年齢のせい」と決めつけず、医師や管理栄養士へ相談して体力をつけ感染症にかかりにくい身体づくりを目指しましょう。
運動とフレイル予防を意識する
体力や筋力が低下すると、転倒や骨折、入院をきっかけに生活機能が低下することがあります。
無理のない範囲で歩く、椅子から立ち上がる運動をするなど、継続できる活動を取り入れることが大切です。
ただし、心臓病や足の病気がある方は運動の内容が心臓や足に負担をかける可能性があります。
運動を始める前に医療スタッフへ相談するようにしましょう。
看護師からひとこと
死亡率や死因を調べると、どうしても怖い数字が目に入ります。
けれども統計は日本中の大勢の患者さんをまとめた数字であり、そのままあなたの未来を示すものではありません。
同じ年齢・同じ透析歴でも、体調や持病・食事・運動・治療内容は一人ひとり異なります。
大切なのは数字を見て将来を悲観することではなく、「何に注意すればよいか」を知ることです。
感染症を早く見つけること。心臓に負担をかけないこと。透析を予定どおり受けること。食事や運動について困ったときに相談すること。
こうした日々の積み重ねが、透析を受けながら長く生活していくための支えになります。
まとめ
2024年の日本透析医学会の調査では、透析患者さんの年間粗死亡率は11.3%でした。ただし、これは高齢者や多くの持病を抱えた方を含む集団全体の数字であり、個人の余命を示すものではありません。
透析患者さんの主な死因は、感染症、心不全、悪性腫瘍です。特に感染症は24.2%を占め、最も多い死因となっています。
透析は命を短くする治療ではなく、低下した腎臓の働きを補い、命を支える治療です。
予定どおり透析を受けること、水分・塩分を管理すること、感染症や心不全の兆候を早く見つけること、栄養と体力を保つことが、長く元気に生活するための大切なポイントです。
※本記事は2026年版です。死亡率・死因の数値は、日本透析医学会が公表した2024年末時点の最新年次統計を使用しています。
参考文献
- 日本透析医学会統計調査委員会.わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在).日本透析医学会雑誌.2025;58(12):524-602.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/58/12/58_524/_article/-char/ja?utm_source=chatgpt.com - 日本透析医学会.第2章 2024年慢性透析患者の動態.
https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2024/pdf/02.pdf?utm_source=chatgpt.com - 日本透析医学会.第3章 2024年透析導入患者の動態.
https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2024/pdf/03.pdf?utm_source=chatgpt.com


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