
透析を始めたあとも、さまざまな薬を飲んだり、透析中に薬を使用したりすることがあります。
「透析で血液をきれいにしているのに、どうして薬を飲まないといけないの?」
「薬がたくさんあるけれど、それぞれ何のために使っているの?」
「透析を始めてから薬が増えた気がする…」
と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
透析は、腎臓の働きの一部を代わりに行う大切な治療です。しかし、腎臓が行っているすべての働きを透析だけで補えるわけではありません。
そのため、透析だけでは調整しきれない部分を薬で補ったり、腎不全に伴って起こりやすい問題を薬で治療したりする必要があります。
この記事では、透析患者さんに薬が必要な理由と、よく使われる薬の種類や役割、薬を飲むときに注意したいポイントについてわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 透析患者さんに薬が必要な理由
- 透析患者さんによく使われる薬の種類
- それぞれの薬がどのような目的で使われるのか
- 透析患者さんの薬が多くなりやすい理由
- 透析中に使われる薬
- 薬を飲むときに注意したいこと
- 市販薬やサプリメントを使うときの注意点
※実際に使用する薬や飲み方は、患者さんの状態によって異なります。処方された薬を自己判断で中止したり、量や飲み方を変更したりせず、医師や薬剤師の指示に従ってください。
透析をしているのになぜ薬が必要なの?
「透析をすれば、腎臓の代わりをしてくれるのでは?」と思うかもしれません。
おっしゃるとおり血液透析では、血液中にたまった老廃物や余分な水分を取り除き、カリウムなどの電解質を調整できます。
しかし、腎臓にはそれ以外にもさまざまな働きがあります。
透析だけですべての腎臓の働きを補えるわけではない
腎臓には、主に次のような働きがあります。
- 体内の老廃物を尿として排泄する
- 余分な水分を排泄する
- ナトリウムやカリウムなどの電解質を調節する
- 体液量や血圧の調節に関わる
- 赤血球をつくる働きを助けるホルモンを分泌する
- 骨やミネラルの状態を保つために必要な働きをする
血液透析では、このうち老廃物や余分な水分を取り除いたり、電解質を調整したりすることができます。
一方で、腎臓が持つホルモンに関する働きなど、透析だけでは十分に補えないものもあります。
そこで必要になるのが薬による治療です。
透析だけでは調整しきれない部分を薬で補う
透析患者さんでは、たとえば次のような問題が起こることがあります。
- リンが高くなる
- カリウムが高くなる
- 貧血になる
- カルシウム・リン・副甲状腺ホルモン(PTH)のバランスが崩れる
- 血圧が高くなる
これらは、透析を受けているだけですべて解決できるとは限りません。
そのため、
透析+食事・水分管理+薬物療法
を組み合わせながら、体の状態を整えていきます。
つまり、「透析をしているのに薬も必要」というより、透析と薬にはそれぞれ異なる役割があると考えるとわかりやすいでしょう。
透析患者さんによく使われる薬にはどんなものがある?
透析患者さんが使う薬は、全員が同じ種類というわけではありません。
血液検査の結果や血圧、持病、食事の状態、透析条件などによって、必要な薬は一人ひとり異なります。
透析患者さんに使われる薬は、大きく考えると、
- 透析だけでは十分に調整できないものを管理する薬
- 腎機能の低下によって不足した働きを補う薬
- 合併症や持病を治療する薬
などに分けることができます。
代表的な薬と役割を見てみましょう。

リンを下げる薬
透析患者さんによく使われる薬のひとつが、リンを管理するための薬です。
腎臓の働きが低下すると、食事から取り込んだリンを尿として十分に排泄できなくなります。
血液透析によってリンを取り除くことはできますが、透析だけではリンを十分に管理できないこともあります。
そこで使用されるのが、リン吸着薬などの薬です。
リン吸着薬は、消化管の中で食事に含まれるリンと結合するなどして、リンが体内へ吸収されるのを抑えるために使用されます。
リンが高い状態が続くと、骨や血管などに影響することがあるため、透析患者さんにとってリンの管理は大切です。
また、リンを管理する薬は食事との関係が重要です。薬によって飲むタイミングが異なるため、指示された方法で服用しましょう。
薬だけに頼るのではなく、食事から摂取するリンを意識して減らすことも大切です。
カリウムを下げる薬
カリウムも、腎臓から排泄される成分のひとつです。
腎機能が大きく低下すると、余分なカリウムを尿から十分に排泄できなくなり、血液中のカリウム値が高くなることがあります。
これを高カリウム血症といいます。
カリウムが非常に高くなると、不整脈などにつながることがあるため注意が必要です。
透析によってカリウムを除去できますが、透析と透析の間にも食事などからカリウムは体内へ入ってきます。
患者さんの状態によっては、消化管内でカリウムを吸着するなどして、体外への排泄を促す薬が使用されることがあります。
カリウムについても、薬だけではなく食事管理とあわせて考えることが大切です。
腎性貧血を治療する薬
透析患者さんでは、貧血がみられることも少なくありません。
その大きな原因のひとつが、腎性貧血です。
健康な腎臓では「エリスロポエチン」というホルモンがつくられています。
エリスロポエチンには、骨髄に働きかけて赤血球をつくるよう促す役割があります。
腎臓の働きが低下するとエリスロポエチンが十分につくられなくなり、赤血球が減って貧血になりやすくなります。
そのため透析患者さんでは、赤血球をつくる働きを補うESA(赤血球造血刺激因子製剤)が使用されることがあります。
また、HIF-PH阻害薬と呼ばれる飲み薬が使用される場合もあります。
どの治療を行うかは患者さんの状態によって異なり、血液検査のヘモグロビン値などを確認しながら調整されます。
鉄剤が必要になることもある
赤血球をつくるためには、鉄も必要です。
体内の鉄が不足していると、赤血球を十分につくれないことがあります。
そのため、血液検査でフェリチンやTSATなどを確認しながら、必要に応じて鉄剤が使用されます。
鉄剤には飲み薬だけでなく、静脈から投与するものもあります。
骨やミネラルの異常を整える薬
腎臓は、骨やミネラルの状態を保つことにも深く関係しています。
腎機能が低下すると、リンやカルシウム、ビタミンD、副甲状腺ホルモン(PTH)などのバランスが崩れることがあります。
こうした慢性腎臓病に伴う骨やミネラルの異常は、CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)呼ばれます。
患者さんの状態に応じて、
- リンを管理する薬
- 活性型ビタミンD製剤
- カルシウム受容体作動薬
などが使用されます。
単に「骨を丈夫にするための薬」というわけではありません。
リン・カルシウム・PTHなどを適切に管理し、骨や血管などへの影響を抑えることが治療の目的です。
血圧を調整する薬
透析患者さんでは、高血圧がみられることがあります。
血圧にはさまざまな要因が関係しますが、透析患者さんでは特に体内にたまっている水分量との関係が重要です。
透析と透析の間に水分が増えすぎると、血圧が高くなることがあります。
そのため、
- 塩分・水分管理
- ドライウェイトの調整
- 透析での適切な除水
- 降圧薬
などを組み合わせながら血圧を管理します。
一方、透析中に血圧が下がりやすい患者さんもいます。
そのため、降圧薬の種類や服用するタイミングなどが個別に調整されることがあります。
「透析の日だから血圧の薬を飲まない」など、自己判断で変更しないことが大切です。
そのほか持病や症状に応じた薬
透析患者さんが飲んでいる薬が、すべて「透析のための薬」というわけではありません。
たとえば、
- 糖尿病
- 心臓や血管の病気
- 脂質異常症
- 便秘
- 胃腸の症状
など、もともとの病気や合併症、症状に対する薬が必要になることもあります。
複数の病気を治療している方では、それぞれに必要な薬が加わるため、薬の種類が多くなることがあります。
透析中に使われる薬もある
透析患者さんが使う薬は、飲み薬だけではありません。
血液透析では、体の外へ取り出した血液を透析回路に通して、再び体内へ戻します。
このとき、透析回路の中で血液が固まるのを防ぐために「抗凝固薬」が使用されます。
また、患者さんの状態によっては、貧血の治療薬や鉄剤などが透析中に投与されることもあります。
「透析中に回路から入れている薬は何だろう?」と気になる場合は、透析スタッフに確認してみるとよいでしょう。
透析患者さんはなぜ薬が多くなりやすいの?
「透析を始めてから薬が増えた」
「朝・昼・夕と飲む薬があって大変」
と感じている方もいるかもしれません。
透析患者さんの薬が多くなりやすいのには、いくつか理由があります。
透析だけでは補えない腎臓の働きがある
ここまで説明してきたように、透析ですべての腎機能を代替できるわけではありません。
貧血や骨・ミネラル代謝など、透析だけでは十分に補えない部分については、薬による治療が必要になることがあります。
腎不全に伴う問題を治療する必要がある
高リン血症、高カリウム血症、腎性貧血、CKD-MBDなど、腎機能の低下に伴ってさまざまな問題が起こることがあります。
それぞれに異なる治療が必要になるため、結果として複数の薬を使用する場合があります。
糖尿病や高血圧などの持病の薬も必要になる
透析治療とは別に、糖尿病や高血圧、心血管疾患などの治療を続けている患者さんもいます。
こうした持病の治療薬が加わることも、薬が多くなる理由のひとつです。
薬が多いと、
「本当に全部必要なのかな?」
「少しくらい減らしても大丈夫なのでは?」
と思うこともあるかもしれません。
しかし、自分の判断で薬を減らしたり、中止したりするのは避けましょう。
薬が多くて負担になっている場合や、何のために飲んでいるかわからない薬がある場合は、医師や薬剤師に相談してください。
透析患者さんは薬の飲み方にも注意が必要
透析患者さんの薬では、「何を飲むか」だけでなく、「いつ・どのように飲むか」が重要になることがあります。
薬によって飲むタイミングが異なる
薬によっては、食事との関係を考えて服用する必要があります。
たとえばリンを管理する薬には、食事に含まれるリンの吸収を抑えるため、食事と服薬のタイミングが重要なものがあります。
ただし、すべての薬が同じタイミングではありません。
薬袋やお薬手帳を確認し、指示された方法で服用しましょう。
透析日と非透析日で飲み方が異なることがある
患者さんの状態や薬の種類によっては、透析を受ける日と受けない日で服用方法が調整されることがあります。
特に降圧薬などでは、透析中の血圧低下などを考慮して個別に調整される場合があります。
大切なのは、「透析の日だから飲まない」と自分で決めないことです。
透析日の服用について指示されている場合は、その指示に従いましょう。
腎機能が低下すると薬が体に残りやすくなることがある
薬やその代謝物の中には、腎臓から尿へ排泄されるものがあります。
腎機能が大きく低下すると、このような薬や代謝物が体外へ排泄されにくくなり、体内にたまりやすくなる場合があります。
そのため透析患者さんでは、薬によって、
- 1回に使う量を調整する
- 飲む間隔を調整する
- 使用を避ける
などの対応が必要になることがあります。
これは、透析患者さんが市販薬を自己判断で使わないほうがよい理由のひとつでもあります。
薬によって透析で除去される程度が異なる
「薬を飲んでも、透析をしたら全部抜けてしまうのでは?」
と疑問に思う方もいるかもしれません。
実際には、透析で除去されやすい薬もあれば、ほとんど除去されない薬もあります。
薬の性質や透析方法などによって異なるため、一概に「透析をすると薬が抜ける」とはいえません。
そのため、薬によっては投与量や服用するタイミングが調整されることがあります。
ここも自己判断せず、医師や薬剤師から説明された方法を守ることが大切です。
薬を飲み忘れたときはどうする?
毎日いくつもの薬を飲んでいると、うっかり飲み忘れてしまうこともあるでしょう。
ただし、飲み忘れたときの対応は薬によって異なります。
基本的には、飲み忘れたからといって自己判断で2回分をまとめて飲むことは避けましょう。
「次の薬まで時間がないけれど、どうすればいい?」
「食事のときに飲む薬を忘れてしまった」
など判断に迷った場合は、処方時に受けた説明を確認するか、医師や薬剤師に相談してください。
薬をもらったときに、「飲み忘れた場合はどうすればよいですか?」とあらかじめ確認しておくのもよいでしょう。
市販薬やサプリメントを自己判断で飲んでもいい?
風邪をひいたときや頭痛がするときなど、市販薬を使いたいこともあるでしょう。
また、「体によさそうだから」とサプリメントや健康食品を利用している方もいるかもしれません。
しかし、透析患者さんでは注意が必要です。
市販薬でも注意が必要なことがある
「ドラッグストアで買える薬だから安全」とは限りません。
腎機能が大きく低下している患者さんでは、薬の種類によっては成分が体内に残りやすくなったり、用量の調整が必要になったりすることがあります。
また、普段飲んでいる薬との飲み合わせにも注意が必要です。
市販薬を購入するときは、薬剤師や登録販売者などに透析を受けていることを伝え、必要に応じて主治医や透析施設へ確認しましょう。
サプリメントや健康食品にも注意する
サプリメントや健康食品は「薬ではないから大丈夫」とは限りません。
製品によっては、透析患者さんが摂取量に注意したい成分が含まれていることがあります。
また、普段使用している薬に影響する可能性もあります。
市販薬やサプリメント、健康食品を新しく使いたい場合は、事前に医師や薬剤師へ確認しておくと安心です。
ほかの病院を受診するときは「透析をしている」と伝える
風邪やけが、歯科治療などで、普段の透析施設とは別の医療機関を受診することもあります。
その際は、「血液透析を受けていること」を医師や薬剤師に伝えましょう。
現在使用している薬についても伝えることが大切です。
お薬手帳を持参すれば、普段どのような薬を使用しているのかを確認してもらいやすくなります。
薬が多い・飲みにくいときは医師や薬剤師に相談しよう
透析患者さんでは、複数の薬を長期間使用することがあります。
そのため、「薬をきちんと飲み続けること」そのものが負担になることもあります。
薬の名前と飲んでいる目的を確認する
すべての薬の名前を暗記する必要はありません。
ただ、
「これはリンの薬」
「これは貧血の治療」
「これは血圧の薬」
というように、何のために使っている薬なのかを大まかに知っておくと、自分の治療を理解しやすくなります。
わからない薬があれば、「これは何の薬ですか?」と医師や薬剤師、透析スタッフに聞いてみましょう。
お薬手帳を活用する
透析施設以外の病院やクリニックを受診するときにも、お薬手帳は役立ちます。
どのような薬を使用しているのかを医師や薬剤師が確認できるため、薬の重複や飲み合わせなどを確認するうえでも大切な情報になります。
複数の医療機関を受診している場合も、できるだけ現在使用している薬の情報をまとめて確認できるようにしておくとよいでしょう。
副作用や飲みにくさも相談してよい
「薬の数が多くて飲むのが大変」
「錠剤が大きくて飲みにくい」
「飲み始めてから気になる症状がある」
「飲むタイミングが複雑で忘れてしまう」
といったことも、医師や薬剤師に相談して構いません。
飲みにくいからといって自己判断で中止するのではなく、困っていることを伝えてみましょう。
まとめ|透析だけでは補えない部分を薬で支える
透析は、腎臓の働きの一部を代わりに行う大切な治療です。
しかし、透析だけですべての腎臓の働きを補えるわけではありません。
そのため透析患者さんでは、
- リンやカリウムを管理する
- 腎性貧血を治療する
- 骨やミネラルのバランスを整える
- 血圧を管理する
- 持病や合併症を治療する
など、さまざまな目的で薬が使用されます。
また、飲み薬だけでなく、透析回路の中で血液が固まるのを防ぐ抗凝固薬や、透析中に投与される薬もあります。
薬が多いと、
「なぜこんなに飲まないといけないの?」
と感じることもあるでしょう。
そんなときは、まず「この薬は何のために使っているのか」を確認してみてください。
薬の役割がわかると、透析治療と薬がどのようにつながっているのかも理解しやすくなります。
一方で、透析患者さんでは腎機能の低下によって薬の量や飲み方に注意が必要になることがあります。
薬の種類や量、飲むタイミングは患者さんによって異なります。
自己判断で薬を中止したり飲み方を変更したりせず、わからないことや困っていることがあれば、医師や薬剤師、透析スタッフに相談しましょう。
参考文献
- 日本腎臓学会編.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,2023.日本腎臓学会
日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」 - 日本腎臓学会.CKD診療ガイド2024.2024.日本腎臓学会の現行ガイドライン一覧にも掲載されています。日本腎臓学会
日本腎臓学会 診療ガイドライン一覧 - 日本透析医学会.慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン(2025年改訂版).日本透析医学会雑誌.2026;59(4):127-224.J-STAGE
CKD-MBD診療ガイドライン(2025年改訂版) - 日本透析医学会.2015年版 日本透析医学会 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.日本透析医学会雑誌.2016;49(2).J-STAGE
Minds「腎性貧血治療のガイドライン」 - 日本透析医学会.維持血液透析ガイドライン:血液透析処方.日本透析医学会雑誌.2013;46(7):587-632.J-STAGE
日本透析医学会「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」


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