「前回は平気だったのに今日は痛い」
「同じ場所に刺したはずなのに今日はすごく痛かった」
「看護師さんも同じなのに、なぜ毎回違うんだろう?」
「このスタッフ、穿刺が下手!」
「こんな痛みがまたおこるの?」
透析患者さんから、このようなお話をよく聞きます。
透析は週3回、一生続く治療です。そのため、針の痛みは生活の質(QOL)にも大きく影響しますし、透析を憂鬱に感じる一因にもなります。
実は、穿刺の痛みの感じ方は「今日は運が悪かった」という話で解決できるものではありません。
皮膚の神経、痛点、体調、緊張、血管の状態など、いくつもの要素が重なって、その日の痛みの程度は変わるのです。
この記事では、「なぜ毎回痛みの感じ方が違うのか」を科学的な視点からわかりやすく解説します。
結論
透析の穿刺の痛みの感じ方は
「痛点」「皮膚の状態」「神経の分布」「体調」「穿刺方法」
など、複数の要因が組み合わさって生じます。
つまり、今日痛かったのは痛点に当たったからかもしれませんし、先週痛かったのは穿刺方法だったかもしれません。
さまざまな要因が複雑に関係し合って穿刺時の痛みが生じるため、毎回痛みの感じ方が違うのは、ごく自然なことなのです。
このような理由を知ることで、「今日は痛かった…」「なんで痛くなるんだろう」という気持ちが少し軽くなるかもしれません。
痛点とはなに?
「痛点(つうてん)」という言葉を聞いたことはありますか?
昔は「皮膚には痛みを感じる点がある」と考えられていて、その名残の言葉です。現在では痛点よりももっと細かい【自由神経終末(侵害受容器:nociceptor)】という神経が痛みを感じていることが分かっています。
実はこれらの神経は皮膚全体だけでなく身体中に、点状ではなく網目のように広がっています。
つまり
「ここに痛点が1個ある」
というよりも
「皮膚の中に細かい神経が張り巡らされている」
というイメージです。
穿刺の針がその神経を刺激すると、脳へ「痛い」という情報が伝わり痛みを感じるのです。
透析の穿刺で痛みを感じる理由 6選
穿刺の痛みを感じる理由はなんでしょうか?調べてみてわかった理由を6つ紹介します。
理由① 数mm違うだけで刺激する神経が変わる
患者さんは「いつも同じ場所」に穿刺していると思っていても、実際には数mm単位で穿刺位置は変わっています。
この数mmの違いだけでも刺激する神経は変わります。
その結果「今日は痛かった」「今日はあまり痛くなかった」という違いが生まれてしまうのです。
理由② 手首に近いほど神経が敏感
患者さんから「手首に近いところは痛い」と言われることがあります。
これには理由があります。
手首付近は
- 皮膚が薄い
- 皮下脂肪が少ない
- 神経が比較的浅いところにある
という特徴があります。
反対に肘から手首の真ん中あたりの部分は、手首よりも皮下脂肪があるため皮膚の表面から神経までの距離が長くなります。そのたった少しの距離で、手首に近い部分にせんしするよりも痛みを少なく感じる患者さんもいます。
ただし、あくまでもそう感じる患者さんがいるという一例をご紹介したのであって、全員に当てはまるわけではないことに注意が必要です。
また、シャントの走行や血管の太さ、皮下脂肪の厚さなどは個人差が非常に大きいため、「ここなら絶対痛くない」という場所は存在しません。
理由③ 穿刺の針の角度
穿刺する角度も重要です。
浅すぎても、深すぎても、余計な神経を刺激して痛みを感じやすくなります。
近年の研究結果では皮膚へ素早く垂直(90度)に近い角度で穿刺した方が、皮膚への刺激が少なく、痛みが軽くなるのでは?という可能性が報告されています。
これは針が皮膚内を長く進まず、刺激する神経終末が少なくなるためと考えられています。
しかし、シャント穿刺では血管の深さや走行に合わせて穿刺の角度を調整する必要があるため、一律に90度で刺すわけではありません。
透析の針は、採血や注射の針よりも太く長いため、穿刺の際の針を90度で刺すのは難しいと考えます。
個人的な経験になりますが、私は90度の角度では穿刺はしていません…
理由④ 緊張
不思議なことですが、同じ痛み刺激でも緊張している日は痛みを強く感じる傾向があります。
これは脳の働きによるものです。
「痛そう」
「失敗したらどうしよう」
そんな不安があると、交感神経が優位になります。
その結果、筋肉が硬くなり、硬くギュッとなった皮膚や筋肉の間を針が通るので痛みは増幅されますし、穿刺や痛みに意識が集中しているといつもより痛みを感じやすくなる傾向があるのです。
反対に、看護師と会話をしていたり、テレビに集中していたりすると、
「あれ?今日はもう終わったの?」
という患者さんも少なくありません。
それはリラックスしていたり、別のことに意識が集中していて、少しだけ穿刺への意識が薄くなっているからなのです。
ですから、私が穿刺するときには『針を刺される』ということに患者さんが集中しすぎないように、たくさん話をして少しでもリラックスできるように心がけています。
人の身体って不思議ですね。
理由⑤ シャントの状態
実は、シャントも毎日同じ状態ではありません。
例えば
- 前日の水分量
- 体重増加
- むくみ
- 血圧
- 血流
などで、血管の張り具合は変化します。
血管がよく触れる日もあれば、少し深く触れにくく感じる日もあります。
この些細な違いが、穿刺時の痛みに影響することもあります。
理由⑥ 針の太さ
透析では、一般的に15〜18G程度の太い針を使用します。
採血では21〜23G程度が多く使われます。
針は数字が小さいほど針は太くなります。
つまり、透析の針は採血よりかなり太い針なのです。
研究でも、針が太くなるほど痛みは強くなることが報告されています。
透析に必要な血液量を確保し、十分な透析をするためには針は太くなくてはなりませんので、これは避けられない理由の一つです。
痛みを少なくするためにできること
穿刺の痛みをゼロにすることは難しいかもしれません。
多くの患者さんが、穿刺の痛みに悩まされているのは事実ですので、少しでも穿刺の痛みが軽減できるように医療スタッフもさまざまな対策を考えています。
例えば
- 麻酔テープを使用する
- 深呼吸させる
- 肩や腕の力を抜いてリラックスさせるようにする
- 痛かった場所を医療スタッフと共有する
- 緊張が和らぐように、声をかける
これだけでも、穿刺の痛みが楽になることがありますし、痛いことをお伝えいただくことで次回の穿刺が少しでも楽になるような対策を医療スタッフとともに考えることも可能です。
少しでも痛みの少ない穿刺ができるように、一緒に対処してゆきましょう。
看護師からひとこと

私たちは毎回、「今日はできるだけ痛くしないように」と思いながら穿刺をしています。
しかし、患者さんの体は毎日少しずつ違います。
昨日は痛くなかった場所でも、今日は敏感になっていることがあります。
だからこそ、「今日は痛かった」「ここを刺すのは少し怖い」そんな一言は、とても大切な情報です。
遠慮する必要はありません。
私たちは、その声をもとに次回の穿刺方法を一緒に考えていきます。
まとめ
透析穿刺の痛みは、「運」や「気のせい」ではありません。
皮膚の神経、痛点の分布、穿刺位置、角度、緊張、シャントの状態など、多くの要因が重なって、その日の痛みが決まります。
毎回痛みが違うのは、決して珍しいことではありません。
もし痛みが強かったときは、一人で我慢せず、ぜひ医療スタッフに伝えてください。
あなたの「今日は痛かった」という一言が、次回の穿刺をより快適にする大切なヒントになります。
シャントについて、穿刺についてもっと知りたいという方は、こちらの記事もご覧ください
参考文献
- Arendt-Nielsen L, et al. Pain following controlled cutaneous insertion of needles with different diameters. Somatosens Mot Res. 2006.
- Haq MI, et al. Clinical administration of microneedles: skin puncture, pain and sensation. Biomed Microdevices. 2009.
- Nadir U, et al. How to minimize pain with local anesthesia and improve patient experiences: a review. An Bras Dermatol. 2026.
- 日本透析医学会『慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン』
- 日本腎不全看護学会『透析看護ガイドライン』


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